1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震。神戸・阪神エリア及び淡路島北部に甚大な被害が発生し多くの人が亡くなられ、当地震による災害は阪神・淡路大震災と名付けられました。あれから今年(2022年)で27年になります。
発生当時、同じ近畿地方に住んでいた私にとっては見慣れた神戸の街が一瞬にして変わってしまったことにショックを受けました。阪神高速3号神戸線の倒壊は多くの人の目に焼き付いていると思います。そして、もう一つ、神戸高速鉄道 大開駅の崩壊です。
センセーショナルな写真
これは崩壊した神戸高速鉄道(現・阪神電鉄神戸高速線)大開駅の様子です。
実は、崩壊寸前・数秒前に東二見駅発阪急三宮行きの特急がこの大開駅を通過しており1)、少しでも時間がずれていたら、、、ゾっとする話です。
数年間復旧できないと考えられていた
これは、当時あまりにも衝撃的な内容過ぎて朝日新聞の切り抜きを行ったものです。当初はなんと復旧ができず数年間鉄道ネットワークは分断される、と報道されていました。
阪急・三宮駅、阪神・元町駅と山陽電鉄の西代駅を結び、各社が相互乗り入れしている神戸高速鉄道(本社・神戸市中央区)が運輸省近畿運輸局に対し、兵庫県南部地震による神戸市兵庫区内の地下トンネルの崩壊などで、全線の完全復旧は不可能と報告していることが、二十一日わかった。全線開通のためには新たなトンネルを造らねばならない可能性があるといい、阪神地区と姫路方面を結ぶ唯一の私鉄ルートは少なくとも数年間、分断される恐れが出てきた。
出典)朝日新聞 1995年1月22日 朝刊
ただ、現実的には1995年8月13日と地震発生後7ヶ月で神戸高速鉄道は全線開通しており(ただし大開駅は当初通過で大開駅自体が復旧したのは1年後の1996年1月17日)、当初の見込みよりかなり早く復旧しました。
理由はわかりませんが、被災後、日本鉄道建設公団(現 鉄道建設・運輸施設整備支援機構)や大阪市交通局(現 大阪市高速電気軌道、Osaka Metroのこと)、帝都高速度交通営団(現 東京地下鉄、東京メトロのこと)などが調査に入り、被害の様子が解明されトンネル全てを作り直すのではなく軌道下の部分は活かしてトンネルの上側だけ新たに作り直す方針によって早く復旧できたのかもしれません。
通常の地下鉄工事なら3~5年かかる工事を約1年で行ったとのことで、関係者がかなり力を注いで工事を行ったとのことでしょう。
大開駅が崩壊した要因は?
よく言われている話が 『地下鉄は地震に強い』 です。しかし、この大開駅の崩壊によってそのような神話は崩れ去りました。地下鉄道・地下駅も地震で崩壊することがわかりました。
そもそもこのように地下駅が崩壊した事例というのは、実は初めてのケース、と言われています。
大阪市交通局や営団地下鉄の技術陣によると、ロサンゼルスやメキシコの大震災でもこうした被害は出ていないといい、「世界で初めての被害」状況となっている。
出典) 朝日新聞 1995年1月26日 朝刊 、3面
現在でも日本においては唯一の事例かと思います。では、なぜ大開駅は地震で崩壊したのでしょうか。私なりに調べてみました。要因としては以下の4つが考えられるとのことです。
- 近代以降初めての都市部での大地震
- そもそも地震による荷重が考慮されていなかった
- コンクリート柱だった
- 地盤特性による影響
①近代以降初めての都市部での大地震
まず、記録上残っている震度7を観測(現地調査含む)した地震というのは以下の6つしかありません。
- 阪神・淡路大震災(1995年1月17日 マグニチュード7.3):兵庫県神戸市・芦屋市・西宮市・宝塚市・北淡町・一宮町・津名町で震度72)
- 新潟県中越地震(2004年10月23日 マグニチュード6.8):新潟県川口町で震度7
- 東日本大震災(2011年3月11日 マグニチュード9.0):宮城県栗原市で震度7
- 熊本地震(2016年4月14日 マグニチュード7.3):熊本県益城町で震度7
- 熊本地震(2016年4月16日 マグニチュード6.5):熊本県西原村・益城町で震度7
- 北海道胆振東部地震(2018年9月16日 マグニチュード6.7):北海道厚真町で震度7
注)1995年時点では、震度0~6は計測震度計で震度観測、震度7は現地調査で決定するものとなっていた。2)
なお、震度7が設定されたのは1949年なため(1948年の福井地震を契機に設けられた)、1949年以前に震度7というのは存在しないのは当たり前ですが、上記の中で地下鉄が発達するような大都市に震度7が襲ったのは阪神・淡路大震災の神戸市が唯一の例です。
そして、この大開駅も震度7という最大級の強さの揺れが発生しています。2)3)
これまでわが国では、このような地下構造物を有する都市部で大規模地震の洗礼を受けていない。この様な構造物の地震被害事例として、1985年メキシコ地震によるメキシコ市の地下鉄は、わずかに側壁継目部のずれや建設中の下水用シールドトンネルのリング継手ボルトの切断等に関する被害の報告等しかなく、構造物の損傷の程度も軽微である。
出典)『兵庫県南部地震による神戸高速鉄道・大開駅の被害とその要因分析』土木学会論文集 No.537/I-35,303-320,1996.4 <https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/1996/537/1996_537_303/_pdf/-char/ja>-2022年1月15日閲覧
都市部を襲った地震としては1923年9月1日に発生した関東大震災を思い浮かべる方も多いと思います。ただ、日本で初めての本格的な地下鉄道が東京・浅草~上野(現在の東京メトロ銀座線)で開通したのは1927年12月で、関東大震災発生当時はまだ建設も始まっていませんでした。
②そもそも地震による荷重が考慮されていなかった
実は、地震による荷重がそもそも考慮されていなかったとのことです。
大開駅の建設当時の設計指針では、横断面に関して地震荷重は考慮されていなかった。
出典)神戸高速鉄道 東西線大開駅災害復旧の記録 平成9年 佐藤工業株式会社p.1-1-2
原設計で外力として考慮されているのは、上載土の重量、躯体重量および土圧であり、地震力は考慮されていなかった。
出典)公益社団法人地盤工学会:地盤工学・基礎理論シリーズ2 地盤の動的解析-基礎理論から応用まで-, p.138
地下鉄に関してはこれまで国の耐震基準がなく、それぞれの事業者が独自の指針や経験則に基づいて設計、工事してきたのが実態だ。
出典)読売新聞 1996年9月20日
これは驚きの話ではあるのですが、以下のような理由があるようです。
地中構造物は地上の構造物と異なり、見かけの単位体積重量が周辺地盤と同程度以下と小さいことや構造物は周辺地盤の変形に拘束されほぼ周辺地盤と同様に振動するという特徴を有している。その様な構造物の横断面における耐震検討は省略される場合が多い・・・(以下省略)
出典)矢的照夫・梅原俊夫・青木一二三・中村晋・江嵜順一・末富岩雄:兵庫県南部地震による神戸高速鉄道・大開駅の被害とその要因分析、土木学会論文集 No.357/I-35,303-320,1996.4 <https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/1996/537/1996_537_303/_pdf/-char/ja>-2022年1月16日閲覧
つまり、一般的には地下構造物は地盤と一緒に振動するため、地震が発生してもあまり被害が大きくならないということです。
しかしながら実際は、地下でも水平方向に大きな力が作用するということでした。揺れではなく地震による地盤の変形が壊れた原因と考えられるようです。
一応、弱い地盤(軟弱地盤)の場合は地震による地盤の変形でトンネルに大きな力がかかることがわかっていたためそれを考慮した耐震設計があったそうです。が、大開駅はそこまで弱い地盤ではなかったそうで、それでも大きな地震が発生すれば構造物が崩壊するほどの力が発生することが研究で明らかになりました。
神戸高速鉄道大開駅の被害に関し、地盤の調査と被害原因探求のための解析を行った。被害の形態、解析の結果とも、地盤の変形に伴う水平力が構造物破壊の原因であることを示唆している。
出典)公益社団法人地盤工学会:地盤工学・基礎理論シリーズ2 地盤の動的解析-基礎理論から応用まで-, p.142
地中構造物は、地上構造物と異なり、見かけの質量が周辺地盤より小さいことや周辺地盤に拘束され周辺地盤と同様に振動するという特徴を有している。沖積軟弱地盤では、地震動による地盤のせん断変形が無視できないほど大きいことから、これの影響を考慮した耐震設計が普及しつつある。しかし、大開駅付近の地盤のように、軟弱地盤とは言えない普通の地盤でも、今回と同程度の地震が作用すれば、地中構造物に無視できない影響を与えることが明らかになった。
出典) 廣戸敏夫、飯田廣臣、青木一二三、小向將介、山原陽一、横山正樹:神戸高速鉄道・大開駅復旧工事の設計と施工、阪神・淡路大震災に関する学術講演会論文集 1996年1月、p.467
なお、阪神・淡路大震災が発生し以降、1995年に運輸省(現・国土交通省)より開削トンネルなどの耐震性を高める緊急耐震工事の通達が出され、地下トンネルの耐震性の低い柱などは補強が行われています。
例えば、Osaka Metroや東京メトロでは阪神・淡路大震災以降に実施してきたトンネル中柱の耐震補強工事は完了しています。4)5)
③コンクリート柱だった
地下トンネルの柱の材質はいろいろあります。鋼鉄製や遠心力鋳鋼管、鉄筋コンクリート造などなど。
いろいろな材質がある中で、阪神淡路大震災では、鋼管柱や鉄骨コンクリート柱では被害が小さく(阪神三宮駅など)、大開駅や地下鉄三宮駅の鉄筋コンクリート製柱(RC柱)は大きな被害が出ていました。6)
なお、大開駅の復旧では中柱は鉄筋コンクリート製をやめて角形鋼管柱で建設されました。7)
④地盤特性による影響
大開駅の地盤の特徴(特性)が影響した理由も考えられるそうです。
大開駅と同様の構造形式である同じ神戸高速鉄道の高速長田駅では、地盤の違いにより被害が少なかったとのことでした。8)
つまり、たまたま大開駅は地下駅に対して壊れやすい土質の条件だったと言えるでしょうか。
「神戸高速鉄道の長田駅ももう少し強い地震動であれば危なかった」。・・・(中略)・・・。長田駅も崩壊寸前だったというのだ。長田駅が崩壊を免れたのは、大開駅より地盤がやや硬かったことや中柱が多かったことなどが考えられた。
出典)読売新聞 1996年9月20日
また、詳細には書かれていませんがが、地下構造物の大きな被害は、旧湊川以西の海岸低地帯に集中している(大開駅もこれに該当)とのことでした。9)
おわりに
まとめてみましたが、要因としては一つではなく複合的なものが重なったのではないか、と思いました。素人の考えではありますが。
参考文献
1) 朝日新聞 1995年1月28日 朝刊
2)『気象庁|「阪神・淡路大震災から20年」特設サイト』<https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/1995_01_17_hyogonanbu/data.html>-2022年1月15日閲覧
3)神戸高速鉄道 東西線大開駅災害復旧の記録 平成9年 佐藤工業株式会社p.1-1-1
4)『防災対策|Osaka Metro』<https://www.osakametro.co.jp/safety/safety_take/disaster_prevention_measures/bousai_taisaku.php> -2022年1月16日閲覧
5)『東京地下鉄の地震対策 – 内閣府』平成16年11月<http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/senmon/shutochokkajishinsenmon/12/pdf/shiryo1.pdf>-2022年1月16日閲覧
6)阪神・淡路大震災の地下鉄構造物の被害と被害原因の検討、総合都市研究 第61号 1996pp.34-35
7)廣戸敏夫、飯田廣臣、青木一二三、小向將介、山原陽一、横山正樹:神戸高速鉄道・大開駅復旧工事の設計と施工、阪神・淡路大震災に関する学術講演会論文集 1996年1月、p.473
8)被害程度の差異に着目した地下鉄の被害要因分析,第2回 阪神・淡路大震災に関する学術講演会(土木学会)投稿中,1997
9)阪神・淡路大震災の地下鉄構造物の被害と被害原因の検討、総合都市研究 第61号 1996 p.37
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