JR北海道の函館線 余市~小樽間の廃止問題や、JR西日本・JR東日本の輸送密度の低い路線の収支公表など、赤字(ローカル線)の問題が話題になっています。
ですが、赤字ローカル線は複雑な現代社会がいろいろと絡み合っていて、これを一つ解決すれば良い、という単純なものではないです。
それに、感情論を議論されていることも良くあるのですが、感情論を議論入れたらダメなんだと思うんですよね。。。
相手を批判するだけでは何も始まらない、生まない。いや、軋轢を生むだけ。本気でなんとかしたいのであれば、前向きに建設的に議論して考えて進めていくことが大事だと思ってます。
というわけで最近気になっている赤字ローカル線問題について、着眼点などを整理してみました(個人的なメモです、という予防線を貼っておきます
前提条件
鉄道は営利事業であり、公共交通である。
- 鉄道事業は赤字では成り立たない。
- 鉄道は公共交通である。
鉄道が赤字では成り立たないのはあたりまえといえばあたりまえではあります。営業収入で赤字になるのであれば、何らかの補填が必ず必要となります。収支で判断してはいけない、ということはありません。
自治体からの補助金なのか、不動産収入といった事業からの補填なのか、同じ事業者の黒字路線からの補填(内部補助)なのか、濡れ煎餅の儲けからの補填なのか。
一方で、鉄道は公共交通でインフラです。機能は違うものの、道路や水道、下水道などと同じインフラであります。営業収入で赤字だから即廃止!とはいかないのも事実です。
下記のえちぜん鉄道が良い例です。2005年、当時は京福鉄道でしたが大事故で運行停止となり、代行バスが走り始めると大変なことになりました。
着眼点
将来見通しを考えてのその地域・沿線のまちづくり・地域づくり
よく「本当に鉄道が必要なのか。バスも含めて公共交通のあり方を地域が考えるべきだ。」と言われます。私は最もな話だと思います。
ですが、根本のところはもっと上のレベルの議論に引き上げて
「その地域が今後どのような地域・まちづくりを目指すか」
を交通どうするかも含めて、先に議論すべきと思うですよね。。。
鉄道でなくて、バスでないとなぜいけないのか。というのは、正論なのですが、それは今の沿線地域に対応してどうするか、という対症療法でしかないと思うのです。
国としてその赤字路線をどうしたいのか(特に、特急が運行している路線)
2022円4月11日に、JR西日本は「ローカル線に関する課題認識と情報開示について」と題して、輸送密度(平均通過人員)2000人/日未満の線区の収支率と収支を公開しました。
▽ローカル線に関する課題認識と情報開示について – JR西日本(2022.4.11)
その線区には、特急が多数運行している山陰本線の出雲市~益田間(スーパーおき号、スーパーまつかぜ号)や紀勢本線の白浜~新宮間(くろしお号)も含まれており、しかも赤字額は他の公開された路線と比べて大きいものでした。
特急が多数運行しているということは、中・長距離移動に利用している人がそれなりに存在するということです。また、以前以下のような表「JR西日本 2019年度輸送密度 2000人/日未満の線区の鉄道VS自動車の所要時間比較」を作ったことがあるのですが、山陰本線 出雲市~益田や紀勢本線白浜~新宮間は所要時間だけで比較すると、自動車よりも鉄道(特急)の方が優位といった区間になっています。
このような路線まで赤字だから即廃止、ていうわけにはいかないと思います。もちろん利用者は少ないい部類に入る路線とはいえ、国内の鉄道ネットワークを担う区間になっています。
地域利用だけで考えればバス転換で良いのでは?ということになるかもしれませんが、中・長距離輸送を担うのにその赤字負担を沿線自治体だけで賄うのは無謀は話であるため、都道府県や国レベルがこのような路線をどうしていきたいのか、というスタンスが重要ですね。
その地域にとってどんな交通が適しているのか
「日田彦山線の不通区間についても本当に鉄道が必要なのか。バスも含めて公共交通のあり方を地域が考えるべきだ。そもそも本当の交通弱者は鉄道に乗らない。総合病院や大規模店舗は駅前にはない。結局、駅からバスやタクシーを使うことになる」
出典:雑草茂る日田彦山線の不通区間「本当に鉄道が必要?」:朝日新聞デジタル<https://www.asahi.com/articles/ASM364V64M36TIPE01J.html>-2019年11月30日閲覧
鉄道として存続させるためには?
鉄道を一度廃止してしまえば、再度復活させるには多額の費用が必要になります。せっかく過去に多額の費用をかけて敷設して存在している鉄道路線、もったいないと言えばもったいない話です。
赤字ローカル線問題で、バス転換を含めた今後の地域の(公共)交通のあり方を考えるのが「フォアキャスティング」、鉄道存続を前提に考えるのが「バックキャスティング」に該当するのだと考えています。
もちろん、鉄道を残すこと自体を目標に考えるのであれば、
- 赤字補填のための多額の費用
- 鉄道利用者の需要の創出
- そして、バスではなく鉄道でなければならない、というみんなが納得する確固たる意義
鉄道輸送が適しているという境界点はどこなのか
興味深い図を見つけた。JR西日本が輸送密度2000人を基準に収支を公開したのはこれでしょうか。まぁ、バスも2000人以上になっているのがなんとも(あくまで一つの目安ですが)
— ぶるーばーど@旅とまちなみとパインどうでしょう~ (@pinenoame) April 26, 2022
出典)都市鉄道研修会:超図説 鉄道路線・施設を知りつくす pic.twitter.com/j3CgXPhSmb
前提条件に、鉄道は公共交通・インフラ、と書きました。それは事実です。なので赤字がから即廃止、というわけにはいきません。
だからといって、1日1人しか利用しない鉄道路線を、公共交通だから・インフラだから鉄道として存続させるべき!とはならないですよね。バスでいいじゃん、ってなりますよね。それは極端な話ですが、どこかで鉄道が適切なのか、バスやジャンボタクシーなのが適切なのか、地域によって境界点がどこかで出てきますよね(その境界点を自治体の赤字補填の体力の限界で決めてしまって良いのか、というのはまた別の問題があるかと思います)。
鉄道はネットワークで成り立っている。
鉄道・バスあるある、なのですが、
「赤字の支線を切り捨てると、幹線も細って枯れていくことがある」というのを聞いたことがあります。
利用者が少ない=赤字額が大きいとは限らない
収支率0.4%(営業係数25416)を叩き出す芸備線の東城~備後落合。天文学的?数字でとんでもない値ではあります。だけど、JR西日本としては巨額の赤字を出す山陰線や紀勢線の方が深刻なんではないかと思います。特急が運行していますからね。。。
JR四国もそう。影響係数としては、予土線や牟岐線の阿南以南が目立ちますが、赤字額としては土讃線の琴平~高知や、瀬戸大橋線(2020年度)の方が大きく、JR四国の財政にとっては利用者が多い都市間幹線路線の方がダメージが大きいのです。
鉄道が廃止されると地域が衰退するのか
鉄道が廃止されたあとの代替交通としてバスが検討されます。「バスのほうが運行経費が節約され、赤字が減る」と考えられているからです。ところが、鉄道からバスに転換された場合、乗客数が急減するのが実態であり、ここ七、八年のデータでは約三割から四割までに落ち込む例があります。
出典)鉄道まちづくり会議『プロブレムQ&A どうする?鉄道の未来[増補改訂版][地域を活性化するために]』緑風出版、2009年、p.38
また、鉄道よりもバスの方がわかりにくい、観光に向かないという一面があります。
・方向幕に降りたい停留場の名前が出ない
出典)『なぜバスは観光に向かないのか?【メモ】 | いまどきの鉄道サイトの育て方』<http://imadoki-railsite.com/?p=518>-2022年5月25日閲覧
・バス停の路線図は営業所単位での地図しかない
・乗車、降車が前後で違う
・マイナールールが多い
一方で、
鉄道沿線自治体の廃線以前の状況を考慮する統計モデルを使用した分析の結果,先行研究で指摘されている鉄道の廃止が起こった地域で観察される高い人口減少率は,廃線以前からの状況を反映しているものであり鉄道の廃止によって引き起こされたものとは判断し難いことが示唆された。
出典)鉄道路線の廃止が沿線自治体の人口・所得水準変化率に及ぼす影響、季刊地理学 Vol.72(2020),p.107<https://www.jstage.jst.go.jp/article/tga/72/2/72_107/_pdf>
存廃問題が出てからでは手遅れ?
存廃が議論になる時点でもうほとんどが手遅れなんじゃないかと思っています。 少なくとも、利用者が減っていてこのままではヤバい!ぐらいの時点で議論始めないと、とは思うのです。
国鉄→民営化以降の時点からとんでもなく利用者が少ない路線については、なんとも言えませんが。