京津線は京都と大津を結ぶ京阪電鉄の路線で、京都市営地下鉄東西線の乗り入れることで京都市の中心部と大津市の中心部をダイレクトに結ぶ都市間路線となっています。
1912年(大正元年)8月15日、当時の京津電気鉄道株式会社が三条大橋駅(今の東西線三条京阪駅付近)と札の辻駅(今の上栄町駅~びわ湖浜大津駅間に位置)で開業し、今年で開業110周年を迎えます。1)
歴史
1925年に札の辻駅~浜大津駅(今のびわ湖浜大津駅)開業により全線開業となり、以後長らく京都側ターミナルの三条と大津市中心部の浜大津を結ぶ路線として営業しておりましたが、1997年に路線が一部重複する地下鉄東西線の開業と引き換えに京津三条駅~御陵駅間が廃止、以後は地下鉄東西線に京津線が三条方面に乗りいれることで京都市の中心部と大津市の中心部を結ぶ役割を果たしています。
今は地下鉄東西線が延伸し、西側は嵐電(京福嵐山本線)と接続する太秦天神川まで直通できる路線になっています。なお、過去には京津線が京阪本線と三条で線路が繋がっており、大阪の天満橋駅からの浜大津駅までの直通電車(びわこ号)が運転されていました。
4両編成の電車が道路の真ん中を走る
この京津線ですが、他にはない特徴があります。4両編成の大きな電車が道路を走るのです。
存在感抜群。通常道路を走る路面電車は多くても2両なのが普通かと思います。それが4両と長い編成が路面電車として道路上を走るということで、とても特殊な電車となっています。
終点のびわ湖浜大津駅直前では、交差点の真ん中を4両編成の電車が急カーブで曲がっていくのも見どころではあります。
鉄道ファンにとっても見どころの大きい路線
地下鉄東西線の太秦天神川駅~びわ湖浜大津駅の直通が基本である京津線は、前述のとおり地下鉄に乗り入れてその車両が道路を走るという変わった鉄道なのですが、途中の区間は百人一首でも詠まれる逢坂の関がある逢坂峠を越える山岳鉄道でもあります。特に、大谷駅~上栄町駅は最大61‰(パーミル)の急勾配区間があり、日本の鉄道では3番目に急な坂になっています。2)
‰(パーミル)とは
出典)『びわ湖浜大津?追分〈京津線〉|鉄の路を辿る|湖都・古都・水都 ?水の路?|おすすめ!|沿線おでかけ情報(おけいはん.ねっと)|京阪電気鉄道株式会社』<https://www.okeihan.net/recommend/mizunomichi/michiannai/02/>-2022年11月23日閲覧
%の10分の1の値。鉄道では勾配を表すことが多く、1000m進んだときに1m高くなると1‰です。つまり61‰は1kmで61mの高低差ということになります。
いろいろな姿を見せる京津線は鉄道ファンにも人気な路線です(と私は思っているのですが?)
終点の駅は大津観光の玄関口
終点の「びわ湖浜大津駅」は、同じ京阪電車の石山坂本線乗換(坂本比叡山口駅・石山寺駅方面)やミシガン・ビアンカといった琵琶湖クルーズ船が発着する大津港があり、大津観光の玄関口となっています。
京都の都心部から大津観光の玄関口へ乗り換えなしでアクセスできるのが京津線の魅力です。
大津観光の玄関口
びわ湖浜大津駅は大津の玄関口となる駅で、京津線と石山坂本線との接続駅になっています。
出典)『びわ湖浜大津駅|駅から探す|スポット検索|おでかけナビ|沿線おでかけ情報(おけいはん.ねっと)|京阪電気鉄道株式会社』<http://www.okeihan.net/navi/spot/station/detail.php?station_info_no=64>-2022年11月23日閲覧
ミシガンやビアンカの乗り場である大津港やアミューズメント施設の浜大津アーカスなどがあり、びわ湖観光やレジャーの拠点となっています。毎年10月に行われる大津祭で、豪華な曳山はこの駅付近を巡行します。2018年3月17日に「浜大津」から現在の駅名になりました。
厳しい状況に置かれている京津線
開業110周年を迎えた京津線ではありますが、厳しい状況に置かれています。
1997年の御陵駅以西の廃止以前から、長らく京都市中心部~大津市中心部は昼間時間帯の毎時4本(15分間隔)を維持してきた京津線ですが、2018年3月のダイヤ変更により昼間時間帯は毎時3本(約20分間隔)に減便されてしまいました。
そして、2022年12月のダイヤ変更により、平日の朝夕ラッシュ時の大幅な減便が行われることになりました。近年、だんだんと運行本数が減ってきているのです。
減便の理由は以下のとおりとなっています。
昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大や、生活スタイルの変化による鉄道利用の減少に伴い、ご利用状況に応じて運行本数を見直すものです。
出典)『2022年12月19日(月)に大津線においてダイヤを変更します ご利用状況に応じて運転本数を見直します』京阪電気鉄道株式会社広報部 2022(令和4)年9月27日<https://www.keihan.co.jp/corporate/release/upload/20220927_keihan-railway.pdf>-2022年12月7日閲覧
これまで平日朝7時代に1時間7本走っていたものが1時間4本にまでと約57%までに減ってしまい、夕方ラッシュ時においても毎時3本程度しか走らないなど、かなり衝撃的な減便となってしまっています。
京津線を活性化するには?
鉄道は乗ってこそ価値があるものなので、やはりみんなが京津線に乗ることが第一です。しかしながら、利用者が増えない・減ってしまうというのは京津線が便利でないという根本的理由が下地にあるためなので、なにか対策を行う必要があります。考えられるのは以下の3つの解決策でしょうか。
- 運行本数を増やす
- 京都市中心部~大津市中心部間の運賃を値下げする
- 京津線を都市の重要インフラと捉えて、自治体からの赤字補填
- 沿線開発・沿線に施設を誘導(都市計画・まちづくりとの連携)
運行本数を増やす
京津線のライバルといえば、同じく京都と滋賀を結ぶJR琵琶湖線(東海道本線)です。
京都側の駅は京津線が乗り入れる東西線とJRとで離れていますが、同じ烏丸線乗換駅を基準としますと、
JR線は京都駅~大津駅が約9分、1時間に7本運行、200円しているのに対して、
東西線・京津線は烏丸御池駅~びわ湖浜大津駅が約26分、1時間に3本で500円とすべてにおいて京津線が圧倒的に不利な状況です。
もちろん京都都心側の駅は烏丸御池駅、びわ湖浜大津駅の方が大津市の中心部で観光拠点であるという分があるのですが、利用者はその区間を移動するだけではないので、経路検索などにひっかかり京都~大津を移動する人に選ばれるよう、運行本数を1時間4本に戻すといった施策が必要となってきます。JR並みの所要時間を実現するのは絶望的ですからね。
ただ、利用者が減っているから運行本数を減らしているという理由があるのでなかなか難しいのかと思います。後述しますが、運行本数を増やすために沿線自治体から費用補助を行うといった対策も必要かもしれません。
京都市中心部~大津市中心部間の運賃を値下げする
前述のとおり、JR(京都駅~大津駅)は200円、東西線・京津線(烏丸御池駅~びわ湖浜大津駅)は500円であり、東西線京津線はJRの運賃の約2.5倍と圧倒的に高いです。
1997年の京津線御陵駅以西廃止・東西線開通前は烏丸御池駅(当時は御池駅)まで行けなかったので比較にならないのですが、1997年以前の京津三条駅~浜大津駅は京阪電鉄一社だったので運賃が安かったのが、1997年以降は三条京阪駅~浜大津駅は二社に運賃がまたがり初乗り運賃が2回取られるという値上がりになりました。
200円は京都市営地下鉄の一区区間よりも安いので(京都市営地下鉄の一区の値段は200円です)烏丸御池駅~びわ湖浜大津駅の区間を200円以下にするのは絶望的だと思いますが、少しでも安くして利用者に選べれる京津線にする必要があります。こちらも沿線自治体からの費用補助が必要でしょうかね。。。
京津線を都市の重要インフラと捉えて、自治体からの赤字補填
前述の「運行本数を増やす」「運賃値下げ」に対しては一鉄道事業者としては大変難しい話だと考えます。京津線は赤字であり、これらの施策が費用対効果に見合うかどうかがカギになりますからね。むしろ、費用対効果に見合わないと想定されているからこれらの施策が行われていないのだと推測します。鉄道会社は民間会社。いくら公共交通と言っても、ボランティアできないですからね。
そういう状況では、沿線自治体が京津線を都市の重要インフラと捉えて、費用負担(赤字補填)を行うことが避けられないのではと思います。
沿線開発・沿線に施設を誘導(都市計画・まちづくりとの連携)
赤字路線の活性化に対して、いつも鉄道自体に対策・施策が行われると思いますが、いくら鉄道を便利にしても、その鉄道を使っていく場所、もっと言えばその鉄道を使う理由がないと利用者が増えません。
例えば、中国山地を走るJRのローカル線である、現在1日3往復しか運行しない芸備線の東城~備後落合の区間を終日1時間8本走らせても増える利用者なんて限られてますよね?費用対効果に見合うと到底思わないですよね?(今の設備で1時間8本運行できないので複線化する費用も見込むことにします)
鉄道はあくまで交通手段です。鉄道だけ便利にしても意味がないのです。京津線を使う目的がないと利用する人はいません。そういう意味では、京津線の沿線を開発したり、沿線に施設を誘導するといった都市計画・まちづくりとの連携が必須となってきます。その分野に対しては、やはり沿線自治体の協力がないと成り立たないですよね。
おわりに
開業110周年ながらも減便傾向にある京津線の将来を心配が心配になり、当記事を書きました。やはり減便は利用者の逸走を誘発するスパイラルを生んでしまうため、どこかで減便スパイラルを止めたり反転させたりする必要があるのではと実感しています。
大阪では、阪堺線の恵美須町駅~住吉駅の間が2023年2月のダイヤ改正で平日昼間は28分間隔に減便されることが発表になりました。
28分間隔は都市部での鉄道・交通機関としては使いづらいのはこの上なく、経路検索サイト・アプリでも選ばれる可能性がかなり低くなると思います。
滋賀県で2022年10月に行われた住民アンケート3)では、
- 利用したいと思える運行間隔:3.6(本/時)(⇒つまり約17分間隔程度以下)、
- 最低限確保すべき運行本数:2.7(本/時)(⇒つまり約22分間隔以下)
といった結果が出ており、概ね20分間隔が公共交通を利用するかしないか(最低限確保すべき)運行本数の閾値(判断となる境目の値)となっています。
そういう意味では阪堺線の28分間隔はもう選べる鉄道手段としては厳しい運行間隔であり、京津線も公共交通として利用されるか否かの分岐点状態とも言えます。
京津線に限らず、どこの鉄道・バスも人口減少とコロナ禍により厳しい状態が進んでいます。そのような鉄道・バスが今後とも地域の人の移動の利便性に寄与するよう存続・発展してもらえたらなぁと思う、今日この頃です。
関連サイト
参考文献
1)『大津線開業110周年記念|京阪電気鉄道株式会社』<https://www.keihan.co.jp/traffic/event/otsu110th/>-2022年10月31日閲覧
2)『びわ湖浜大津?追分〈京津線〉|鉄の路を辿る|湖都・古都・水都 ?水の路?|おすすめ!|沿線おでかけ情報(おけいはん.ねっと)|京阪電気鉄道株式会社』<https://www.okeihan.net/recommend/mizunomichi/michiannai/02/>-2022年11月23日閲覧
3)『公共交通の現状および意向に関するアンケート調査の分析結果について』滋賀県土木交通部交通戦略課 < https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5363203.pdf >-2022年12月19日閲覧